優しくない同期の甘いささやき
「美希は何かあったのか?」

「お父さんも変だと感じた? 私もおかしいと思って聞いたけど、何もないって言われた」


父は姉のことを私と話したくて、早めに出たようだ。

父も健人さんとのことを訊いたら、はぐらかされたらしい。やはり触れないでほしいという感じだったという。


「夫婦のことを周りがあれこれ言うものではないと思うけど、心配でね」

「分かる。結婚して家を出ても、お姉ちゃんは私たちの家族だもんね」


父は私が何かを知っているかと思って訊いてきたが、私も何も知らない。

私たちに知られたくない何かがあるのだろう。

たいしたことでないといいが、不安になる。

父とは駅の改札を通ってから、別れた。反対ホームに立つ父の姿が見えて、小さく手を振る。

穏やかな優しい父で、私も姉もあまり叱られたことがない。

姉が結婚すると健人さんを紹介した時も反対することなく、良かったなと喜んでいた。

あたたかく見守ってくれる両親には、心配をかけたくない。姉もきっと、同じ思いだろう。

会社最寄駅に到着して、改札を出る。後ろから熊野が声をかけてきた。


「おはよう」

「熊野……おはよう」


熊野は私の顔を不思議そうに見てきた。
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