優しくない同期の甘いささやき
私はまたもや熱くなった頬を押さえながら、熊野の後ろを歩いた。


定時を過ぎて、熊野が私の席までやって来た。


「終わったか?」

「今片付けるから、待って」


デスクの上は何も置かない状態で帰るのが、うちの会社のルールになっている。

ノートパソコンもキャビネットに収納して、鍵をかけた。


「ふたり、一緒に帰るの?」


声をかけてきたのは、黒瀬さんだった。熊野が「そうです」と返す。

黒瀬さんは「へー」と私をチラリと見た。

もう黒瀬さんとは、普通に会話が出きるようになっている。胸が弾むことはなくなったが。

熊野も黒瀬さんにあの時は歯向かっていたけれど、今は普通だ。

時間が解決してくれるというのは、間違いではないと実感している。


「ようやく熊野の想いが届いた?」

「えっ?」


私は、キョトンとした。熊野は苦笑する。


「あと少しで落ちると思っています」

「良かったな。頑張れ、頑張れ」


黒瀬さんが熊野の肩をポンポンと叩くと、近くにいた人たちまで「頑張って」と熊野に応援の言葉をかけた。

みんな、聞き耳を立てていたようだ。

私ひとりだけが戸惑って、おろおろした。
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