優しくない同期の甘いささやき
熊野の悲痛な訴えにみんなが笑った。

必死になる姿がおもしろいのだろう。私もおかしくなって、笑う。


「加納まで笑うなよ。ほら、行くぞ」


熊野は私の手をしっかりと握って、歩き出す。

それを見ていた人たちが拍手をした。

恥ずかしすぎる……。


「熊野、恥ずかしい」

「俺もだ」


私たちは手を繋いだままで、駅に向かった。

熊野の家は、私の家と反対方向だった。降りた駅の名前は知っていても、馴染みのない駅だ。

駅から少し歩いていったところで、目を見張った。高層マンションが立ち並んでいたからだ。


「熊野、どこに住んでいるの?」


見える範囲には高級そうな建物しかない。熊野は私の手を引いて、進んだ。

スーパーなどいくつかの店が建つ先に、五階建てのグレー色のマンションがあった。


「ここだよ」


他のマンションから比べると、外観は安っぽく見えた。でも、この立地だと高いのでは?と考える。

私の疑問に熊野は答えた。


「父親の友だちが持っているマンションで、安く借りているんだ。そうじゃないと、ここら辺で借りるのは無理だよ」

「そうなんだねー」
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