優しくない同期の甘いささやき
「ちなみにここでは肉しか買わないからな」

「野菜は焼かないの?」


肉だけでは、栄養バランスがよくない。焼肉グリルは肉以外も焼ける。

野菜も焼き具合も見てみたい。


「安いとこで、買ってある」

「熊野、賢いね」


堅実的で素晴らしいなと素直に思った。

褒めたつもりなのだが、熊野は不服そうな表情を見せる。


「バカにしてる?」

「してないよー。良い旦那さんになりそうだなと思った」


熊野は「へー」と天井を仰ぎ見てから、再び私に視線を向ける。


「俺を旦那さんにしたくなった?」

「えっ?」

「俺は美緒を奥さんにしたいよ」

「ええっ?」


いきなり何を言うの?

旦那さん?

奥さん?

私たち、夫婦になるの?

思考が追い付かなくて、かなり動揺した。


「な、何言ってるのよ!」

「シーッ」


熊野の人差し指が私の口のそばまで来る。ハッとなって、周囲に見渡した。

いけない……声が大きくなっていた。慌てて、自分の口を手で押さえる。

体を小さくさせる私に、熊野は選んだ肉のパックを見せた。


「これとこれで、どう?」
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