優しくない同期の甘いささやき
貼ってあるシールの値段を見て、目が飛び出しそうになる。

異論はない。私は、こくこくと頷いた。

非常に美味しそうだ。

旦那さんやら奥さんやらの話から逸れて、ホッとした。

今日は高級肉を食べる日だから、熊野の言動に惑わされないようにする!

自分でも謎な決意だと思うが、良いお肉をしっかりと味わうための決意なのだ。

肉を食べるためには、熊野のプライベートルームに入らないといけないことを忘れていた。

周囲のマンションと比較したら高さは低いけれど、エントランスに入る前に見上げる。

熊野が足を止める私の手首を掴んだ。


「ここまで来て、逃げるなよ」

「逃げようとは思わないけど」

「肉、いらないのか?」

「いる!」


お腹が空いている。早く、食べたい。

胃袋を満たすために、熊野の部屋に入った。


「おじゃまします……」

「おう。好きに見て回っていいからな」

「いや、そんな、ひと様のおうちをじろじろと見れない」

「そうか? じゃあ、手伝ってよ」


私は、「うん」とふたりで並ぶには狭いキッチンへ立った。
< 74 / 172 >

この作品をシェア

pagetop