優しくない同期の甘いささやき
キッチンの横には8畳くらいのリビングがある。ローソファーの前にテーブルが置いてあった。

たぶん寝室は、隣の部屋だろう。

じろじろとは見ないけれど、ざっと配置を把握した。物は多くないが、きれいに片付いている。

野菜を昨日買ったと言っていたから、前もって片付けたのかもしれない。

その野菜を熊野は冷蔵庫から出した。


「野菜、適当に切ってくれる? 俺は、グリルや食器を用意するから」

「うん……」


自分の希望を言えるのなら、私と熊野の役割を逆にしてほしかった。

私は水洗いしたピーマンをまな板に置いて、包丁を構える。

ピーマンを縦にしたり、横にしたりと動かす。向きが決まらない。

どう切るべきだろう?


「美緒? どうした? 何も切っていないみたいだけど」

「ピーマンって、どっち向きで切るのがいい?」

「は? えっと、普段料理してる?」

「ほとんどしていない……。お恥ずかしながら、母任せなの」


母は週に三日ほど近くの定食屋で、パートをしている。時間も昼に五時間くらいだから、家事はほぼ母の仕事となっていた。

ときどき手伝うといっても、年に数回しかしていない。
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