優しくない同期の甘いささやき
見つめられて
姉は翌日も帰らなかった。

健人さんの出張先でトラブルがあり、帰る日が延びたそうだ。

私と両親は首を傾げた。

夫が帰らないからといって、いつまでも実家にいるものだろうか。

仕事用のパソコンは持参しているからと問題なさそうにしているが、姉がいることが問題だ。

どうしても昨夜見た健人さんらしき人の姿が脳内をよぎる。

あの駅に行けば、確認できるかもしれない。でも、何も用事のない駅に行くのは……。

そうだ、熊野がいた。

熊野と会おう。あの駅を利用している熊野に協力してもらおう。

物思いにふけっているのか、ぼんやりしている姉を横目で見てから、自分の部屋に行った。

熊野に会ってほしいとメッセージを送る。

すぐに電話がかかってきた。


『こっちまで来るの大変だろ? どこか真ん中辺で会うか?』

「ううん、そっちに行きたいの。ちょっと確認したいことがあって」

『確認? 俺の何を?』

「違うの、熊野のことじゃない」


姉の様子と昨夜のことを手短に話した。その場所に行けば、健人さんの姿を発見できるかはわからない。

でも何もしないでは、いられなかった。
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