優しくない同期の甘いささやき
席を立とうと腰を浮かせていた私は、座り直した。

探偵ごっこをするくらい、暇だといえば暇だ。

だからといって、熊野の家に行く?

でも、つまらないことに付き合わせてしまったし……。

返事をしないで考え込む私の顔の前で、熊野が手を振る。


「深く考えなくていいから、気軽に来いよ」

「そう言われても……」

「んー、じゃあ、俺にも付き合ってよ。駅の反対側にオープンしたばかりの雑貨屋があるんだよ。ちょっとひとりで入りにくいから、一緒に行って」

「うん、いいよ」


私は、迷うことなく返事をした。熊野の家よりもどこかの店の方が気軽に行けるから、ホッとしていた。

私たちは駅まで行き、南口と北口を結ぶ通路を通って、反対側へと出た。

反対側は高層マンションがなく、低い建物が多い。雰囲気が全く違うことに驚きながら、歩いた。

五階建てのビルの一階と二階に熊野が話していた雑貨店があった。店の前には開店祝いの華やかな花が飾られている。

店内はナチュラルテイストの生活雑貨が多く並んでいて、たくさんの客で賑わっていた。
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