優しくない同期の甘いささやき
譲り合っていると、その女性と一緒に来ていた様子の男性が少し離れた場所から近寄ってきた。

男性は女性の腰に手を置いて「どうしたの？」と声を掛ける。

ふたりは夫婦かカップルのように見えた。


「こちらの方と同じものを取ろうとしちゃって」

「ああ、そう……えっ、美緒ちゃん……」


男性は私を見て、目を見開いた。私は、男性が女性に話しかけた時から、驚いていたのだった。

先ほどまで探していた人……姉の夫の健人さんだったからだ。

健人さんは女性に触れていた手を咄嗟に離した。

女性が不審そうな表情で健人さんに訊く。


「健人さん、こちらの方はどなた？」

「美希の妹」

「あー、あの方の……」


女性は私を上から下まで見て、不敵な笑みを浮かべた。

それから「はじめまして」と言う。


「私、あなたのお姉さんと健人さんが別れたら、結婚する予定になっています」

「はい？　別れたら、結婚？」

「そうです。ただあなたのお姉さんがなかなか了承してくれないので困っています。だからー、早く届を書くように話してもらえます？」


この人は一体何を言っているのだろうか？
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