優しくない同期の甘いささやき
でも、やっぱり何を信じたらいいのか、わからない。

熊野は抱きしめていた腕を緩めて、私の両肩を掴んだ。

彼の胸から離されて、お互いの顔がよく見える。

熊野は私を見つめた。私も熊野の目をしっかりと見た。


「俺は、入社してから美緒だけを見てきた。美緒のいろんな表情を見るのが楽しくて、ずっと見ていたいと思った。美緒にもこっちを見てほしいと思った。こんなふうに見つめ合って、同じ時を過ごしたい」

「熊野……」

「好きだよ」


目を逸らさず、伝えられる言葉に私の心は震えた。目頭が熱くなり、視界がかすむ。

熊野の手が私の頬に触れた。


「なんで、泣く?」


いつの間にか、涙がこぼれていた。

涙を拭う手は、あたたかい。


「うれしくて……」


熊野は「えっ?」と困惑した。私は、口もとを緩める。


「うれしいって、言ったんだよ。好きって、言われてうれしい」

「それはさ、どういう意味で?」

「意味なんて、ないよ。ただ、熊野の気持ちがうれしいだけ」

「そんな顔でうれしいと言われたら、期待するぞ?」
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