優しくない同期の甘いささやき
どうして返事に困ることばかり訊くのかな。

でも、私は好きと言っていない。好きでもないのに、キスしたのかと言われたら何も言い返せないけれど。

顔を俯かせていると、熊野の手が私の顎に伸びてきた。

クイッと上へと向かされて、熊野と視線を合わさる。

見透かすような目に怯えて、「なに?」と訊く声が上擦った。


「俺に抱かれたいと思うようになったら、言って」


私は「ええっ!」と目を見張った。


「そんなこと、言えない。言えるわけがない」


私の返事が不満らしく、熊野は顔をしかめた。


「確かに言いにくいか。んー、そうだな……何か合図でも」

「合図?」

「そう。抱かれたくなったら、手をあげるとか」

「そんなの、迂闊に手をあげられなくなる」


怖い、怖い。うっかり手をあげたら、抱くぞと言われるってことよね?

危険だ……。


「まあ、それは例えだ。もっと特別感がある方がいいな」


熊野は腕組みをして、考え込む。

私はどんな合図を要求されるのかと、ハラハラしながら待った。
< 94 / 172 >

この作品をシェア

pagetop