優しくない同期の甘いささやき
「俺は、話した方がいいと思う。辛いだろうけど、旦那さんが離婚を望んでるのは事実だし、これからのことを考えたら、早めに区切りをつけた方がいいんじゃないかな。それに、今の精神状態も心配だよね? 縁を切れば、前向きになれるかもしれない」


熊野の言うことは、ズッシリと胸に重く響いた。

何も言わないで結論を先に延ばしたら、姉の精神的苦痛も長引く。あんな裏切り男のことなんか、早くに忘れた方がいい。

別の幸せを見つけてほしい。


「そうだね……お姉ちゃんのためにも話してみる」

「辛くなったら、いつでも電話して。美緒を支えたいから」

「ありがとう」


結局帰宅したのは、夕方だった。

両親は買い物に出ていて、姉はひとりでリビングのソファで雑誌を読んでいた。

反対側に座った私は「お姉ちゃん」と呼びかける。

雑誌を開いた状態で、姉がこちらを向いた。

ふたりしかいない今こそが、話す時だ。


「今日ね、健人さんを見かけたの」


話を切り出すと、姉の目が丸くなった。

私が出会った雑貨店近くの駅名を口に出すと、姉の表情が強張った。
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