500文字恋愛小説
№84 人差し指
「主任、これって……」
 
向かいの席に座る主任に引っかかった資料をみせると、わざわざ席を立って私の後ろに回ってきた。

「どこ?」

「ここ、なんですけど。
こっちの資料と今回送ってもらったので違ってて」

「うーん。
どっちが正しいんだろね?
でも、確認しようにも今日はもう無理」
 
時計は既に、八時を指してる。
課内にはほとんど人がいない。

「そうですね。
先方にメールだけ送っときます」

「うん、そうして」
 
顔を上げたら、主任の顔が思いの外近かった。
……吐息すら、かかってしまうほどに。
思わず固まってしまった私に主任の顔がもっと近づき、……唇が、ふれた。

「……主任」

「ん?」
 
主任はいたずらっ子のように笑って、自分の唇の前に人差し指を一本立てた。
< 84 / 103 >

この作品をシェア

pagetop