500文字恋愛小説
№87 ドライヤー
「ほら、座れ」

「はーい」
 
私が床に座ると、彼はドライヤーを持ってきて髪を乾かし始めた。
心地よい風とともにびしょびしょだった髪が乾いてく。

「なんでちゃんと乾かさないかな」

「だって、自分でやると跳ねちゃうんだもん」
 
文句をいいつつ、手際よく髪を乾かしていく彼。

……ほんとは。
彼に髪を乾かしてもらうのが好きだから、わざと自分でドライヤーをかけないのは秘密。

「気持ちいい……」

「はいはい、そうですか。
俺としてはペットの犬を乾かしてる気分だよ」

「……ちょっと酷い」
 
長い髪は乾かすのに時間がかかる。
この時間が少しでも長く続くように、伸ばしている髪。
きっと、
彼と別れたらばっさり切ってしまう気がする。

「はい、おしまい。
……綺麗だよ」
 
髪を一房とってキスすると、彼はにやりと笑った。
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