8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
  *  *  *

 ドアをノックする音で、ジャネットは浅い眠りから目を開けた。
 客室の一室のようだが、ジャネットに割り当てられていた部屋ではない。いつもならついているはずの侍女もおらず、ひとりだ。
 再びノックの音がする。ジャネットは慌てて返事をした。

「はい。どなたですか?」

 これまでになく、頭はすっきりしていた。

(一体、なにがあったのだったかしら。ああそうだわ、私、王都にきて、オスニエル様に仕返しをしようと……)

 そこまで考えると、頭痛がした。
 入ってきたのはフィオナだったので、頭を押さえて、上半身を起こし、礼をする。
 相手は王太子妃だ。無礼は許されない。

「無理に起きなくていいのですよ」

 フィオナはそういうと、ジャネットの額を触った。冷たくて気持ちがいい。

「みえる? アイラ」
「うん。はっきり。心配って」
「そう」

 なにを言っているのだろう。
 ジャネットは目をつぶり考える。心配してくれる人などもういない。自分など、いつ居なくなっても問題のない存在なのだ。

「ジャネット様、あなたの旦那様は、金髪でしたか?」
「え?」
「目元にほくろがあるでしょうか」

 フィオナの発言に、ジャネットは耳を疑う。フィオナは、死んだユーインと会ったことなどないはずだ。屋敷になら肖像画も残されているが、辺境の一伯爵の子息が、王城で知られることなどほとんどない。

「どうして知っているの?」
「見えるからです。ここにいらっしゃるのが」
「……え?」

 ジャネットは茫然とした。フィオナが見ているのは、ジャネットの少しうしろの空間だ。

「あなたにも見せられるかしら」

 フィオナはアイラとオリバーに促した。オリバーはアイラと手をつないだまま、恐る恐るジャネットの手を握る。

「……!」

 ジャネットの視界が一度霞む。次に焦点があったとき、うしろが透けて見えるような半透明な姿の夫が見えたのだ。

「あ、あなた?」

 男の口元が動く。しかし、ジャネットには聞き取ることができなかった。

「もうやめてって、いっているの」

 アイラが言う。ジャネットは目を見開いてアイラを見る。

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