8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
  *  *  *

 ジャネットは、ロイヤルベリー公爵家の箱入り娘だ。
 ロイヤルベリー公爵家は、三代前の王家の三男が興した家だが、直径王族と近い年齢の子が生まれることが多く、王家特有の黒髪も受け継がれることが多かった。その中でも、緑っぽい黒髪を持つジャネットは、初代国王の容姿を色濃く受け継いでいると言われ、特別扱いされていた。

『お前はいずれ、オスニエル様の正妃になるのだ』

 物心ついた頃には、そう言われていた。相手は自国の王子様だ。ジャネットに異論などあるはずがない。
 ジャネットを溺愛する父親は、いずれ手放すのならと、幼い彼女を王都の学校にはやらず、家庭教師をつけ、自領で大切に育てた。そのため、彼女がオスニエルと会うのは、年に数回。国王の生誕祭、春を寿ぐ聖花祭、そして新年を祝う祭りの時くらいだ。
 それでも、ジャネットはオスニエルがいつか自分が嫁ぐ相手なのだと認識し、男らしい彼のことを好ましく思っていたのだ。

 しかし、年頃になったジャネットに送り付けられたのは、縁談を断る手紙だった。
 しかもそれが、オスニエルが望んだことだと知り、余計に落ち込んだ。父親は怒り、しばらく王都に向かうことはなくなった。

 そしてすぐに、領内の貴族子息を屋敷に迎え、ジャネットとの縁組を謀ったのだ。
 傷心のジャネットは、それがとても不快だった。傷ついた心に塩を塗るような所業だと思い、挨拶を済ませた後は、義理は済んだとばかりに誰もいない庭に向かった。昼間ではあるが、公爵家の庭は花が多く植えられており、茂みの裏側にいれば、ぱっと見では気づかれない。

 だが、ジャネットを見つけた人はいた。金髪で、緑色の瞳を持った、ユーイン・ブレストン伯爵子息だ。

『おや、こんなところに隠れているとは』
『……!』

 うまく隠れていたつもりのジャネットは、彼の声を聞いて驚いた。柄にもなく、動揺したせいで顔が赤くなっていたかもしれない。咄嗟に顔を隠してしまった。

 くすり、小さな笑い声がした。ジャネットは指の隙間から、ちらりと彼を見る。
 彼はまだ笑っていた。ずいぶんと穏やかな笑い声だ。
 男性といえばオスニエルか兄かのふたりとしか面識のなかったジャネットは、不思議な気がして、顔に当てた手をおろしてしまっていた。
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