8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
 ジャネットはその日から、ブレストン伯爵家のために生きると誓った。家業である花卉栽培の手伝いをすべく、草花とその効能を調べ、生花の販売だけではなく、加工製品の開発にもいそしんだ。ジャネットがブレンドした香水や香油は、そんな中でできあがった製品だ。見た目が悪く出荷できないような花も、精油にすることで利用できるようになり、ユーインにも伯爵夫妻にもとても喜ばれた。
 さらに、ジャネットはその社交性をもって、香水や香油を領内に広め、ブレストン伯爵家に繁栄をもたらしたのだ。
 それが、ジャネットにとって、一番幸せな時期だった。

 やがて、王家主導の東方侵略が始まると、状況は一変した。公爵領からも兵の派遣がもとめられ、小領主であるブレストン伯爵家にも、それは平等に課せられた。
 兵を率いる将校として、貴族子息たちも出兵を受け入れなければならなかったのだ。
 それはユーインも例外ではなく、彼は伯爵領の領民百人を率い、戦争へ身を投じていく。

 オスニエル率いる王国軍は、無敗の常勝軍だ。被害は最小に抑え、次々と勝利をものにしていった。
 戦争といっても行きっぱなしではない。国土が広いオズボーン王国は、戦地に出る部隊も半期ごとに交代するのだ。
 ユーインは戻ってくると安心したように、ジャネットに甘えた。
 彼は戦いなど好きではないのだ。もともと、精神も細やかで優しく人だ。戦争に出るようになってから、夜中も悪い夢を見て飛び起きることが多かった。殺伐とした戦場が彼の精神に悪影響を与えているのはあきらかだった。

「もう戦争など行かなくてもよろしいのではありませんか?」

 ある日、ジャネットは夫にそう言った。しかし、彼は首を横に振る。
 今は、北のソルディオス王国との戦争中だ。ユーイン達地方の将はこうして交代することもできるが、オスニエルはずっと前線で兵を率いている。

「だが、オスニエル様は前線に立たれているのだ、恐れることなく、敵陣に一番に向かっていく。王太子様がその身を危険にさらして戦っているというのに、私がうしろに隠れているわけにはいかない。この領地の兵を率いる責任もある」

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