8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
 通常、貴族の子息は将となるが、形だけだ。部隊の一番奥で守られ、戦いの場面そのものも見ることはないほうが多い。しかし、生真面目な彼は、本大将であるオスニエルが前に出ているのに自分が下がってはいられないと思っているようだ。

 王家への不敬となるため、口に出すことはできなかったが、ジャネットはオスニエルが憎かった。彼が、普通の王子のようにうしろでおとなしくしてくれたら、ユーインだってこんな風に怯えながら前に出ることなどないのにと。

 彼のためになにかできることはないか。ジャネットは考え、ひとつのアイデアを思い付いた。

「では、恐怖を取り除くような香りを作りましょうか」

 香りの研究をし、様々な香水を作っていたジャネットは、精油の配合ひとつで、気分を変えることができるのが分かっていた。
 領内に出回っていたのは、主に元気が出る香りやリラックスできる香りだったが、同じ要領で、勇気が出る香りを作ろうと思ったのだ。

 彼が戦いに赴くまでの間にと、ジャネットは昼夜を惜しんで精油の配合を考え、その香水を作り出した。自分でも何度も試し、恐怖が薄れ、強気の気持ちがわいてくることは、実証済みだ。
 香水ではすぐに香りが飛んでしまうので、彼に渡すものは香油にした。

「ありがとう。ジャネット」

 彼女が作った香りをまとった彼は、恐怖など感じていないかのようにまっすぐ背筋を伸ばし、勇敢に戦った。
 彼はジャネットに感謝し、帰ってからも夜中にうなされるようなこともなくなった。

 自分の作る香油が彼を救ったのだと喜んだジャネットは、その香油を作り続けた。
 その香りの効果が、いつしかエスカレートしていることには気づかなかった。
 ジャネット自身も、香りの影響を受けていて、恐怖心を失うことがどれほど危険なことなのか、考えるだけの冷静さを失っていたともいえる。

 そして、悲劇は起こったのだ。
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