8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
ユーインが、矢に打たれたのだ。無謀にも、争いのさなかに特攻していったのだという。
『どうして……』
彼の負傷を伝えに来た伝令兵に、ジャネットは詰め寄った。
『最近のユーイン様はまるで怖いものなどないかのように、向かっていかれることが多く……、今回も、今が勝機だと言って……』
ついてくる兵は、ほんのわずかだったという。そのくらい、無謀な攻め方だったそうだ。
自分のせいだ、とジャネットは理解した。
彼のためにと作った香油が、彼から恐怖を排し、行ってはならないところへ向かわせてしまったのだ。
『私のせいだわ』
ジャネットは急いで戦場へと向かった。彼が収容されたという救護所は、戦地からは離れていたが、敵の気配はある。確実に安全だとは言えない場所だったが、ジャネットはかまわなかった。そして、彼女はその場で彼の死を看取ったのだ。
ジャネットは何日も泣き崩れた。よく眠れなくなり、精神的にも不安定になった。彼の両親に申し訳なさを感じ、せめて伯爵家を盛り立てるためにと、精油作成と香水・香油の作成に身を費やした。
恐怖を取り除くような配合をしたそれは、やがて怒りなどの負の興奮感情を増幅させるものへと変質してしまっていた。作り続けながら、ジャネットは自分自身への怒り、オスニエルへの怒りを増幅させてしまったのだ。
その数年のうちに最愛の父もなくなり、跡目を継いだ彼女の兄であるダレンは、妹を公爵家に呼び戻した。
「子もなしていないのだ。いつまでも伯爵家に固執するものではない。お前はまだ十分美しいし、ほかの男と縁をつなげばいい」
兄の妹を心配する一言に、ジャネットは反発心を覚えた。
しかし、狂ったように香水作りにのめり込むジャネットを御しきれないユーインの両親は、兄の案に同意した。
ジャネットは負の感情を抱えたまま、屋敷に戻り、毎日香水や香油を作り続けたのだ。