8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
 ユーインの感情が、見ている全員に流れ込んでくる。

『ユーイン様っ』

 ジャネットは今にもこと切れそうなユーインに駆け寄ろうとした。けれども、透明な壁のようなものがあって、それ以上動けない。

『無理だ。今のこの状態は、リーフェが俺の力を使って作り出した現象だ。ここにいる人間の時間までは戻していないんだ。それに、過去をいじると未来がすべて変わるぞ』

 ドルフが言う。ジャネットはオオカミが話していることに驚いていたが、それさえも些末なことなのだろう。

「お願い。未来を変えたいの。ここから出して」
『だめだ。お前の未来を変えたら、俺たちの未来も変わってしまう』
「じゃあせめて、ユーインを生き返らせて。死なせないで」

 ジャネットの願いを、フィオナは唇をかみしめて聞く。フィオナは七度もやり直しを許されたのだ。それは、たまたま時間を操れる聖獣であるドルフが、フィオナのことを気に入ってくれたからに過ぎない。フィオナが未来を変えたことで、不幸になった人間もいるだろう。
 それこそ、ジェマやトラヴィスは自業自得とはいえ、罪を背負うこととなったのだ。

 フィオナとユーインの違いは、単純に運だ。人間は平等じゃない。だとすれば、持つべきものが持たざる者に手を差し伸べるべきなのだろう。

「ごめんなさい。私は未来を変えたくないの。私にはもう子供たちがいる。この子たちのいない暮らしなんて考えられない」
「……ずるいわ」

 泣きぬれるジャネットに、申し訳ない気持ちはある。ジャネットの気持ちが痛いほどわかる。だけど、フィオナにも譲れないものができてしまったのだ。
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