8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
  *  *  *
 
 オズボーン王国の王城には、ふたつの後宮がある。
 ひとつは現国王アラスター・オズボーンのもので、彼には正妃を含め妻が六人いる。妻たちが鉢合わせしないよう、動線を考慮されてつくられた後宮は、まるで迷路のようになっていて、その全容を把握している人間は後宮付きの使用人くらいだろう。

 もうひとつは王太子オスニエルの後宮だ。
 「正妃がひとりいればいい」と公言するオスニエルは、自分が入りびたるためにと後宮に自室をかまえ、使いやすさを重視して改装を重ねた。
 そのため、今や後宮というよりは、オスニエルとフィオナのための屋敷のようになっている。とくに特徴的なのは、どの部屋からもよく見えるよう、大きく取られた中庭だろう。子供たちが遊ぶために、庭木や花は減らされ、動き回りやすい芝生が広がっている。

「かーたま、こっち!」

 侍女のポリーに抱かれてフィオナに手を伸ばすのは、一歳半のアイラだ。少し癖のある黒髪で、目元の涼し気な感じもオスニエルによく似ている。瞳はピンクの混じった灰色だ。将来は美人になるだろう。

「みて、おはな」

 アイラは言葉を覚えるのが早く、一歳を過ぎた頃から単語をいくつも話し出した。今では、普通に大人と会話ができるくらいだ。

「本当ね。綺麗」
「はやく! ちゃんとみて!」

 ゆっくり歩いてくるフィオナを、まだかまだかと手足をバタバタさせながら待っている。

「かーた」

 一方、出産後新たにつけられた侍女のシンディに付き添われながら、すたすた歩いてくるのが、同じく一歳半になるオリバーだ。こちらも黒髪なのだが、なぜか数束ずつ銀色の髪が混じりこんでいる。くりっと丸い形の目はフィオナによく似ており、灰色の瞳は青みがかっていた。
 アイラとは双子だが、二卵性だからか、顔の印象はそこまで似ているわけではない。

 フィオナは立ち止まり、オリバーを受け止めるために手を広げた。
 オリバーは十ヵ月になる前から歩き出したつわもので、今では普通に走ることもできる。
しかもかなり早い。シンディは完全に後れを取っている。

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