8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
『眉をひそめていた侍女もいたぞ。知らないぞ。変な噂になっても』
「勘弁して。私はなにもやましいことなんてしてないのよ」
『お前はな。でもあっちはそうじゃない。いまだに、政略結婚を強要された可哀想な姫だと思い込んでいるんじゃないのか? ローランドは、お前とオスニエルが仲のいいところは一度だって見ていないんだから』
「……それは、そうだけど」

 たしかに、ローランドと会うのは、オスニエルとの結婚式以来だ。
 あの頃はオスニエルと敵対していたし、会話もつっけんどんで、とてもじゃないが仲睦まじい夫婦だとは見えなかっただろう。オスニエルがフィオナのために薬をもらいに行ってくれたことも、ローランドは知らないわけで、フィオナとオスニエルの関係が改善したことを示す材料はひとつもない。

「でも、子供たちと会って、私が幸せだということはわかったはずよ。ローランドは私の幸せを壊すようなことはしないわ。そういう人よ」
『そうだといいけどな』

 ドルフのいい方に引っかかりながらも、フィオナはそうだと言い聞かせる。

「……とりあえず、オスニエル様に報告だけはしようかしら」

 エリオットが到着したことと、護衛としてローランドが来たことを手紙にしたためる。それから、アイラが歩くのが上手になったことと、オリバーの言葉が増えてきたこと。伝えたいことは、あとからあとから湧いて出てくる。

(……顔を見て、伝えたいな)

 正妃になって以来、こんなに長くオスニエルと会わないのは初めてだ。フィオナは素直に寂しいと思う。顔を合わさないで暮らしたいと思っていた昔が、嘘のようだ。

【お帰りをお待ちしております】

 切ない思いはすべて一文に託す。余計なことを言いすぎては、嫌われてしまうかもしれないから。

「……なに考えているの、私ったら」

 センチメンタルな自分が恥ずかしくなってきて、手紙を握りつぶそうとしたとき、風呂を終えた子供たちが戻ってきた。

「なにしているの? かーたま」

 ぴょこりと小さな頭が顔を出す。アイラだ。

「お父様にお手紙よ」
「また?」
「ええ」
「アイラのこと、かいた?」
「もちろん。オリバーのこともよ」

 うしろから静かにやってきたオリバーは、それを聞いてホッとしたように顔をほころばせた。

「はやく、かえってくるといいねぇ」

 アイラがこんなにお話上手になったのを、聞かせてあげたい。
 彼がいなかったのはたった一カ月半なのに、子供はあっという間に大きくなるものだ。

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