8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
「なにもないことくらい分かっている。それでも苛々するのだから仕方がないだろう。お前を愛しているからだ」
「愛しているなら、どうして信用してくださらないのですか。ローランドは、かつては私の護衛騎士でした。他人より距離が近く見えるのだとしたらそのせいです。三年ぶりに会ったのですから、懐かしさを感じるくらいいいでしょう? ……私はここで、アイラとオリバーと一緒にあなたが帰るのをずっと待っていました。予定のひと月が過ぎても帰ってこなくて……。子供たちの前で悲しむわけにもいかない私の気持ちなんて、分からないんでしょう?」

 オスニエルは息をのむ。オスニエルは感情を我慢しない方だ。喜びも怒りもそのままに周囲にぶつける傾向にある。側近であるロジャーを重用するのも、彼がこちらの機嫌に振り回されても柳のように交わし、なんだかんだとうまくまとめるような柔軟なタイプだからだ。
 子供のために感情を隠さなければならないなんて、考えてもみなかった。

 だが言われてみれば、フィオナが泣いていれば子供たちは心配するだろう。不安になって彼女のそばから離れなくなるかもしれない。だから彼女は、平気な顔で笑っているしかなかったのだ。

「……悪かった」

 顔を上げたフィオナの瞳は潤んでいる。普段なら泣くなと思うところなのに、思い切り泣いてほしいという感情が沸き上がってきた。

「俺が、悪かった。いくら責めてもいい」
「……オスニエル様は別に悪くないでしょう。お仕事ですし。ロジャー様が一緒じゃないところを見れば、後を任せて急いで帰ってきたのでしょう?」
「でも、お前に我慢をさせた。それが嫌だ。俺の前で我慢はするな」

 フィオナの目が食い入るようにオスニエルを見つめる。そして、ポロリと目の縁から涙が零れ落ちた。
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