8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
「アイラ、なにが見えているの?」
「アイラもわかんない」
困ったように首を傾げつつ、アイラは言う。アイラのほうは、思っていることを大体言葉にはできるのだが、知らない言葉が多いので、どうしてもあいまいな表現になる。
まとめれば、今までになかったものがあって、それが時々怒っているようで怖いのだと言っているようだ。
(アイラが、城に行くのに怯えるようになったのはいつからだったかしら)
はっきりとは思い出せないが、ジャネットはその時すでに城にいたような気がする。
(だとすれば、ジャネット様に恐怖を感じているのかしら)
「あ、おばあたま!」
シンディに伝言を頼んでいたので、イザベラは迎えに出てきてくれた。
「お義母様、約束していた髪飾りです」
「あら、素敵ね。あなたの分も作ったのでしょう? どんなの?」
「私のはこれです。ドレスは水色のものを着ようと思っています」
王妃は色味が同じであしらいの違うふたつの髪飾りを比べて、にっこり微笑む。
「堂々としていなさい。あなたは平和なオズボーン王国を作った立役者よ。ジャネットのことがどう転がるかは分からないけれど、オスニエルがあなたに関心が無くなることはないわ」
「はい。ありがとうございます」
それは自信がある、と言えば、王妃様に図々しいと思われてしまうのだろうか。
仮にオスニエルが側妃を娶ったとしても、自分を見捨てることはないのだろうとは思っている。それでも胸がもやもやしているのは、ただの嫉妬だ。
単純に、フィオナはオスニエルが他の女の人に愛を囁くのが嫌なのだ。自分だけを見ていてほしい。他の誰かをその手で触らないでほしい。
(大国の王太子妃としては、ただのわがままね……)
分かっているから口には出せない。
フィオナが内心を隠して微笑んでいるのを見て、なにかを感じ取ったのか、アイラがギュッと抱き着いてくる。オリバーもつないでいる手に力を込めた。
(あれ……?)
神経をとがらせているからだろうか、氷の力が飛び出しそうになる。
「……っ」
オリバーとつないでいる手に、小さな氷の塊ができて、すぐに溶けていく。
「ごめんね。オリバー。……気をつけなくちゃ」
「アイラも気を付ける!」
「る!」
フィオナの独り言を双子が真似したために、緊張感は一気に崩れた。