8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
「アイラ、オリバー、私にも見せて」
オリバーは無言のまま、フィオナをじっと見つめ、アイラと手をつなぐ。
生まれてからは、これといった異能力を見せたことがなかったから、もしかしたらエリオットと同じように、リーフェはこの子たちに加護は与えても能力までは授けていないのかと思っていた。でも、違う。子供達にはたしかになんらかの能力があるのだ。それは、これまでフィオナが知っていたような、氷の力や風の力のような物理的に働く力ではない。
「──!」
オリバーが力を注いだ瞬間、見える景色が少し薄暗くなった。代わりに、見えるはずのないものが見える。人の周りに薄い人がいるのだ。
「幽霊?」
ジャネットのうしろにも、ぼんやりと男性の姿が見える。エリオットに似た感じの、線の細い男性だ。
「あのひと、おこってた。このあいだ」
「だから怖かったの?」
「うん。でもきょうは、ないてるみたい」
「泣いて……?」
フィオナには表情まで確認することができないが、アイラにははっきりと見えているのだろうか。アイラは気になるようで、ジャネットが角を曲がって見えなくなるまで、ずっと彼女の背中を見ていた。
「フィオナ様、あの……」
ローランドに呼びかけられ、フィオナは振り向くと、彼はどこか艶めいた表情をしていた。
「どうしたの、ローランド」
「エリオット様が入寮する日が決まったのです。三日後になります」
「そうなの。寂しくなるわ」
「ええ。もうじき、またお顔を見られなくなるのですね。俺は……」
ローランドが、こんな風に気持ちを声に出すのは珍しい。意識的ににおいを嗅ぐと、ジャネットの残り香はたしかにあるが。
(ローランドは、洗脳っぽいものにかかりやすいのかしら)
「……エリオット」
弟に目で訴えると、彼は了承したように頷いた。
「いくよ、ローランド」
そのまま、エリオットはローランドの返事も待たずに歩き出す。
普段のローランドならば、ここで自分の意志は必ず後回しにする。しかし、今日のローランドはしばらく去りがたそうにフィオナを見つめ続けた。エリオットとの距離が二メートル空いた頃に、ようやく頭を下げてエリオットの後を追った。
「……困ったわね」
「なにが? かーたま」
キョトンとしたアイラの頭を撫で、再びふたりと手をつなぐ。
「なんでもないわ。あなたたちのおかげで、ちょっと見えてきたかも」