王子の盲愛
王子と理世
「……沖津(おきつ)?」
「やっぱ、王弥だ!久しぶりだね!」

「そうだね」
一度、沖津を見てすぐに理世に視線を戻す。

「沖津 敏一(としかず)です。
王弥の奥様ですよね?」
沖津が理世の足元に跪いて、握手を求めてきた。

「え……?あ…はい!理世です!」
沖津の手を握り返そうとする手を、王弥がすかさず握った。

「理世ちゃん!ダメだよ!
こいつ、とんでもない男だから!
理世ちゃんが、穢れちゃう!」

「人聞きが悪いなぁ~
穢れてるのは、王弥もだろ?
…………まぁでも、奥様は純粋そうだな!
確かに、俺が触れたら汚しそう…!」

「消えてよ!今、旅行中なの!」
「はい、はい。
あ!今度の俺のパーティー来てね!
奥様も!」
立ち上がり、女性達の元へ向かいながら言った沖津。

「行かないよ!
財前にも、言ったんだけど?」
「いや、今回は王弥は来なきゃいけないんだよ?
王弥のパパが、行かせるはず!」

「は?」

「八神にとって、俺の会社は“目の上のたんこぶ”だから!」
そう言って、後ろ手に手を振り去っていったのだった。


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沖津の言葉通り、王弥と理世は沖津主催のパーティーに出席させられていた。

【パーティーに出席して、探りを入れてこい】との命で。

資産家でしかも、上流階級の人間しか出席を許されないパーティー。
出席者は、それなりの人物ばかりだ。

「やっぱり、俺の言った通りでしょ?」
「………適当な所で、帰るから!」
「パパに言われなかったの?
“探りを入れてこい”みたいなこと」
「言われたよ」
「探っていいよ!」
「別に、どうでもいい」

「フフ…さすがだな!王弥は!
まぁ、安心してよ!
八神をどうこうなんて、考えてないから!
そんな簡単に、どうこうできるとも思わないし!」

沖津は、No.2と言われる程の資産家だ。
しかも、沖津本人が一人でNo.2まで上り詰めたのだ。
かなり王弥の父親は警戒していて、まさに“目の上のたんこぶ”なのだ。

「あ、あの…王弥くん…」
「ん?どうしたの?」
「お手洗い、どこかな////?」
恥ずかしそうに王弥に耳打ちする、理世。

「あ、会場を出てすぐだよ!行こ?
沖津、じゃあね!」
「ちゃんと戻ってきてね!
二人に紹介したい人がいるんだ!」

意味深な沖津の表情。

「何だろう」
「ん?」
「沖津さんの、紹介したい人って」
「さぁ。興味ない」
「王弥くんは、ほんと……」
「ん?」
トイレから会場に向かいながら話す、王弥と理世。
理世は、王弥を見上げた。

「私だけなんだね……!」
「うん!理世ちゃんしかいらない!」

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