偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「音無さん、どうかされましたか?」
争う声を聞きつけて駆け出して来たスタッフが仲裁に入ろうとする。

ん?
音無さん?
そうか、大きな声で怒鳴り散らしている女性は地元企業の社長夫人だ。
自身も元局アナで、今はテレビでタレント活動をしている有名人。
だから見覚えがあったのか。

「あなたたちじゃ話にならないわ。他の先生を呼んでちょうだい」
ヒステリックに叫び出す女性。

「どうか落ち着いてください」
何とは収集をつけようと、今日の救急外来を任されている俺より1年後輩の救命医が女性に歩み寄った。
しかし、

「じゃあ説明してちょうだい。必要もないのに私の服を切り刻んだ理由と、たかが点滴をさすためにこんなにひどいことになった私の腕の経緯を」
「それは・・・」

内出血によりどす黒く変色した左右の腕を見せる女性に、医師は言葉を失い花見先生の方へ視線を向ける。

「これは医療ミスよ。私はこの後テレビの収録があるのにこんな腕では人前には出れないし、この服だって祖母から譲られたビンテージ物の服だったの。この責任、どうとるつもり?」

「それは・・・」
うつ向いてしまう花見先生。

ここではっきりと経過を説明すればいいのに。そうすれば収まるのにな。

「責任者を呼びなさいっ」
女性の声が一段と大きくなり、周囲は静まり返った。
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