偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
事故による外傷もなく、ケガの手当てが終わった真理愛は帰宅となった。
最後に少しでも話がしたくて近づこうとしたが、お母さんと高城先生に囲まれていて言葉を交わすこともできなかった。

「お世話になりました」
いつもの、いかに小児科医らしい穏やかな顔でおじさんに挨拶をする高城先生。

「どうぞお大事に」
おじさんの方も笑顔で送り出す。

真理愛はお母さんと高城先生に挟まれて病院を後にした。


「ケガがたいしたことなくてよかったですね」
事情を知らない花見先生が話しかけるけれど、
「そうだね」
俺は無愛想に答えることしかできない。

俺は何か間違ったことをしたのか?
塙くんの件は悲しい事故だったけれど、俺だって被害者だ。
やかましくカメラや取材の記者に追われた時には、ウザイけれど気にしなければいいと思っていた。
でも、今になって思い知らされるとは・・・

「杉原先生、私の部屋まで来てください」
救急外来を出て医局へ向かおうとするおじさんに呼ばれた。

「えっと、今は勤務中なので後でいいでしょうか?」
いくら落ち着いたとはいえ、まだ患者が残っている。

「いえ、今すぐにお願いします。そもそも今日は勤務の予定ではないはずですよね?人手が足りなくて回らないのなら、救命部長に連絡をしますが?」
普段温厚なおじさんが強い口調で脅すものだから、救急外来の空気が凍り付いた。

「わかりました。すぐに伺います」
こうなったら手を止めてでも行くしかないだろう。
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