偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「おいで」
敬也に向けて差し出された手。

「ぁあー」
不思議なことに敬也の方も手を出した。


愛おしそうに敬也を抱き、診察をしようとするおじさん。
お母さんもその横からうれしそうにのぞき込んでいる。

「じいじだぞ」
「ばあばよ、はじめまして」

2人は代わる代わる声をかけて敬也をあやしてくれる。

きっと、気がつかなかっただけで私も同じように愛されてきたんだと思う。
見返りなんて求めることのない愛情を惜しみなく注いでもらった。
それなのに、頑なな私はおじさんに心を許すことなくお母さんに反発し続けてきた。
なんて馬鹿な娘だったんだろう。

「この子のためにも幸せになりなさい」

今までだったら、「わかっているわよ」って言い返すようなお母さんの言葉が、親になった今なら素直に聞ける。

「どんなに苦労しても自分が選んだ道だ。後戻りはできないぞ」
いつになく強いおじさんの言葉も心にしみる。

「ありがとうございました。幸せになります」
私は一旦立ち上がって深く深く頭を垂れた。
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