偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
研修医時代から数えて勤務は7年。
後輩も増え、非常勤とはいえ研修医をフォローすることも多くなった。
幸い、うちの救急に来るのはできる子が多い。
それは頭がいいって意味ではなくて、機転が利いて要領のいい子。
間違っても人付き合いが苦手なコミ障の人間に務まる職場ではない。

「慌てなくていいから落ち着いて」
彼女の肩をポンと叩いた。

花見栞。
この春地元国立大を卒業した一年目の研修医。
まじめでよく勉強しているから知識は豊富だが、あがり症なのかいつもおどおどしている。
そのことが周りのスタッフをいらだたせるらしく、彼女に対する風当たりはかなりきつい。

「本当に、すみません」

目に涙を浮かべて唇をかむ姿を見て、俺は無意識に彼女の腕を引いていた。

「ちょっとおいで」
「え?」

ちょうど仕事も落ち着いたところだし、休憩にも良い時間だ。

「ちょっと外すから、何かあったら呼んで」
それだけ言い残して、俺は救急外来の外に向かった。
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