偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」

自販機で買ったミルクティーを渡し、救急外来から出たところにあるベンチに腰を下ろす。

「失敗なんてみんなあるんだ。気にするんじゃないよ」
「はい」

慰めのテンプレのようだが、実際全てに完璧な人間なんていない。
俺だってどれだけ怒られてきたことか。

「もともと救命は向かないって家族からも大反対だったんです。でも、私はどうしてもドクターヘリに乗りたくて」
少し下を向きポツリポツリと話す姿はまだ幼く見えて、とても医者には見えない。

「もしかして実家は医者の家?」
話の流れからそんな気がした。

「ええ、内科の開業医です。父も祖父も医師ですし、私はひとりっ子なのであとを継げってやかましく言われていて、実家に帰ればその話ばかりで、もううんざりです」
「ふーん」
あれ、こんな話をいつかどこかで聞いた気がする。

「でも、私自身は救命に興味があってここに来たんですが・・・」
「後悔しているの?」
きっと毎日叱られているんだろうから、辟易しているのかもしれない。

「いいえ、ここが好きですから。でも、自分には無理なんじゃないかと思うこともあります」
「そうか」

こうして話せば、自分の思いをきちんと言葉にできるし、冷静に周りを見ているように感じる。
やはりあがり症なのかもしれないな。

それにしても、こうして彼女と話をしていて思い出すのは一人の研修医のこと。
きっと悩んでいたんだろうに気づいてもやれず、結局事件を起こさせてしまった研修医、塙くんの顔が俺にの頭には浮かんでいた。
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