偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
広い救急外来処置室の一角にあるワークスペース。
数台のデスクが置かれ、手の空いた先生やスタッフがカルテを書いたり打ち合わせをしたりする場所。
処置室の中にある分周りから見えないわけじゃないが、患者さんの治療スペースからは少し離れている。

「何でこうなったかわかる?」
俺は椅子に座り、目の前に花見先生を立たせたまま聞いてみる。

「それは・・・」

「君は午前中の診察で、何か間違ったことをしたの?」
「いいえ」

「自分の判断が間違ってないって思っているんだね?」
「はい。あの状況ではけいれん発作を予測することはできませんでした」
少し落ち着いたからだろうか、はっきりと意見を言う花見先生。

「そうだね。僕もそう思うよ」
「え?」

問題はそこじゃないんだ。

「患者は医者を信じているんだよ。自分や自分の大切な人の命を預けているんだからね。その医者が動揺したんじゃ相手も不安になってしまうだろ?」
「・・・」

普段から俺はあまり厳しいことは言わないことにしている。
みんなそれぞれ個性があるし、現場で体験しながら勉強するのが一番だと思っているから、細かく文句を言うことはしない。
ただ、最低限注意しないといけないことは言わないといけない。

「花見先生、迷うんじゃない。医者が迷いを見せれば、患者が動揺する」
俺にしては珍しく強い口調になった。

「すみません」
花見先生は声を震わせて下を向いた。

あーあ、また泣かせてしまった。
女子の涙は苦手だ。
困ったなと思っていると、すぐ後ろから視線を感じた。

気になって振り返った瞬間、俺は息が止まりそうになった。
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