偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
トントン。

時刻は午後9時を過ぎた頃。
病棟の照明も落とされてすっかり暗くなった廊下から、誰かが入ってくる気配。

「誰、ですか?」
黒い影がゆっくり近づいてきて、私の声が震える。

夜の病院がこんなに怖いなんて思っていなかった。
ここに泊るなんて言ってしまったことを少しだけ後悔した。

コトン。
応接セットのテーブルに何かが乗せられた音。

「誰なの?」

看護師さんが来たのなら声をかけるはずだし、こんな時間にお見舞い客でもないと思う。
足元を照らすだけの間接照明では人物の影を映し出すのが精一杯で、誰が入ってきたのかを知ることはできない。

「何とか言いなさいよっ」

バンッ。
近くにあったクッションを人影に向かって投げた。

「痛てっ」

えっ。

その声を聞いただけで、私には誰だかわかってしまった。
忘れたくても忘れられない人が、そこにいた。
でも、どうして?
さっきまで私には無反応だったのに。
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