偶然から始まった恋の行方～敬と真理愛～

「昼間は勤務があるから、帰りは夕方7時くらいになるぞ」
「うん、そのころ行くわ」

どうやら本気でうちに来るつもりらしい。

「お父さん、大丈夫なのか？」

真理愛が家に帰らないのはお父さんの付き添いのため。
そこをおろそかにしてはいけないと念を押してみた。

「意識は戻らないけれど状態は安定しているし、最近夜には宿泊施設に泊っていたから」
「そうか」

患者がよっぽど重篤でない限り、24時間の付き添いは必要ない。
俺が知る限りお父さんの容態は落ち着いている。
まだ意識が戻らないから心配な部分はあるが、常に誰かが付き添うような状態ではないはずだ。

「私が行ったら、迷惑？」
渋ってしまった俺の気持ちが伝わったかのか、真理愛の表情が曇る。

「別に迷惑なわけじゃない。ただ、俺たちが知り合いなのは黙っていた方がいいだろ？」
だから、あまり親し気な行動はとらない方がいいと思っただけだ。

「大丈夫。おじさんは何も言わないわ。私には甘いから」

それは自信満々に言うことじゃないぞと言ってやりたがったが、やめておこう。
こんな風に言えるのは、誰にも心を開けずに寂しそうにしていた真理愛が高城先生に打ち解けているってことだろうから。

「近くまで着たら連絡してくれ」
「はい」