偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「昨日、熱が出た時にたまたま俺のマンションに来ていて、携帯にお前からのメッセージが入っているのを見てしまったんだ」
わざとじゃないぞと言い訳する太郎。

何だそう言うことか。

「何年も前に偶然知り合って、この間彼女のお父さんが運ばれてきたときに再会したんだよ」

細かい事情は話さずに、以前から知り合いだったことは白状した。

「そうだったのか」
「黙っていてすまない」

太郎と知り合うよりも真理愛との出会いが先だった。
太郎との会話の中で真理愛の話は何度も出てきていたし、「実は知り合いなんだ」と告白するチャンスはいくらでもあった。
でも、俺は言わなかった。
意図的に黙っていた。
それはある種、友人である太郎に対する裏切りだろうと素直に謝った。

「別にいいさ。でも、本気なんだよな?」
「何が?」

太郎が何を言いたいのかなんとなくわかっていながら、気づかないふりをしてみる。

「大切な妹なんだ。随分苦労もしてきている。不幸にはしたくない」

俺だって、不幸にしようとは思わない。
太郎以上に真理愛の幸せを願っているつもりだ。
ただ、素直になれない自分がいる。

「やっぱりまだ、トラウマなのか?」
「まあな」
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