星名くんには秘密がある
*
「ただいま」
玄関に並べられた靴を見て、今日は母がいることに気付く。今日から日勤だと言っていたことを思い出した。
リビングのドアを少し開けて顔を出す。「おかえりー」とキッチンに立つ母が返事をした。
薄暗い階段の電気をつけて、自分の部屋へ上がる。象の足取りのように、のっそりと重い。
なんだか今日は、どっしりと疲れた。なんて思いながら、通学鞄を開いた手を止める。
「……ない」
顔から血の気が引いていく。バレッタの入った花柄のポーチがない。ひっくり返して全てを探したけど、どこにも見当たらなかった。
「どうしよう……どうしよう。とりあえず、落ち着かなきゃ」
ぶつぶつと念仏を唱えるように、右往左往と部屋を歩く。
1日の行動を脳内再生してみるけど、心当たりはない。いつ紛失したのか分からない。
このまま見つからなかったら……考えただけで生きていけない。
上がる時よりも重くなった足でリビングへ向かうと、母が出来上がった夕食を並べていた。
お姉ちゃんは友達と食事のようで、ハンバーグとスープが3人分。
「結奈、ちょっと顔色悪いんじゃない? 大丈夫?」
皿を置いた母が、すぐに私の顔を覗き込んだ。両手で頬を包んで額同士を当てる。いつも人の異変に気付くのが早い。
「熱はなさそうだけど」
「失くしちゃった。大事なバレッタなのに、失くしちゃった」
今にも泣き出しそうな震える声で、私は顔を両手で覆う。
優しく肩をさする母が、「そっかそっか」と頷くように。
「ただいま」
玄関に並べられた靴を見て、今日は母がいることに気付く。今日から日勤だと言っていたことを思い出した。
リビングのドアを少し開けて顔を出す。「おかえりー」とキッチンに立つ母が返事をした。
薄暗い階段の電気をつけて、自分の部屋へ上がる。象の足取りのように、のっそりと重い。
なんだか今日は、どっしりと疲れた。なんて思いながら、通学鞄を開いた手を止める。
「……ない」
顔から血の気が引いていく。バレッタの入った花柄のポーチがない。ひっくり返して全てを探したけど、どこにも見当たらなかった。
「どうしよう……どうしよう。とりあえず、落ち着かなきゃ」
ぶつぶつと念仏を唱えるように、右往左往と部屋を歩く。
1日の行動を脳内再生してみるけど、心当たりはない。いつ紛失したのか分からない。
このまま見つからなかったら……考えただけで生きていけない。
上がる時よりも重くなった足でリビングへ向かうと、母が出来上がった夕食を並べていた。
お姉ちゃんは友達と食事のようで、ハンバーグとスープが3人分。
「結奈、ちょっと顔色悪いんじゃない? 大丈夫?」
皿を置いた母が、すぐに私の顔を覗き込んだ。両手で頬を包んで額同士を当てる。いつも人の異変に気付くのが早い。
「熱はなさそうだけど」
「失くしちゃった。大事なバレッタなのに、失くしちゃった」
今にも泣き出しそうな震える声で、私は顔を両手で覆う。
優しく肩をさする母が、「そっかそっか」と頷くように。