星名くんには秘密がある
 綱引き、棒引きと競技が終わり、借り物競争の時間になった。
 入場しながら次の準備をする1年生を見て、私もムカデ競争が良かったと自分のくじ運の無さに絶望した。

 スターターピストルから開始の音と煙りが立ち上がる。滑り出しは順調だった。
 緊張で震えながらお題の紙を広げると、一旦思考が停止する。またとんでもない物を引いてしまった。

 どうしたらいいのかと考えているうちに、次々と選手が追いついて来る。各々が団席の前で声を上げ、紙に書かれた物を探し始めた。


「誰かガラケーの人いる? 絶対いないよね? ねえ、誰か先生助けて!」

「可愛い男子か、カッコいい女子! 一緒に走ってください!」

「……かつら、貸して」


 生徒たちの必死な声が空へ響く。一歩出遅れて団席の前へ立つけど、ガクガクと足の動きが止まらない。

 他のお題も難関だけど、よりによって『好きな人』を当ててしまうなんて。
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