星名くんには秘密がある
 フィナーレに吹奏楽の壮大な演奏が流れて、大きな拍手と共に幕は降りた。

 ぐすんと鼻を啜る音を立てて、表面張力で保たれている涙をぐっと堪える。

 現れたオリオン座は、きっと怪人なんだろう。星になって、夜空から彼女を見守っているんだ。なんて切なくて美しい話なの。

 周さんの怪人を始めとして、演劇部みんなの演技が素晴らしくて見入ってしまった。
 幕が閉じたステージを静かに見つめながら、下津くんはどこか遠い目をしている。


「灰になるって分かってたのに、なんで抑えきれなかったんだろね。隠し通せば、闇の中だろうと幸せを感じられたのに。愚かだよなぁ」


 ねっ、と同意を求められて、うん? と曖昧な反応しか出来なかった。
 純粋な劇の感想なのか、それとも誰かを浮かべてつぶやいたものか。

 その意味深な表情から、心情を読み取ることは難しい。


 カーテンが開き、昼下がりの光を取り込んだ体育館は明るさを取り戻した。
 下津くんもいつも通りの気さくな感じになっていて、少し緊張が和らぐ。

 立ち上がって顔を上げた瞬間、全身からサッと血の気が引いた。行き交う人の中で、こちらへ視線を向けている比茉里ちゃんの姿があったから。

 何か言いたげな唇はキュッと閉じられていて、盛り上がった下まぶたから雫が溢れそうになっている。


「……どうして?」

「比茉里ちゃん、違うの! これは」


 最後まで聞かないで、彼女は逃げるように体育館を出て行く。2人でいるところを見られた。

 考えたら、すぐ分かることだった。比茉里ちゃんが傷つくこと、気付けたはずなのに。

 自分のことばかりで、人の気持ちを踏みにじる行為をした。
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