星名くんには秘密がある
「えーっと、すでに僕は友達だと思ってたんだけど」


 髪をふわっと掻きあげて視線を落とす仕草と、少し寂しげに上がる唇の両端。

 失礼なことを言っちゃった。
 ごめんなさいを口にする私に、僕の方こそと謝罪の取り合いが起こる。

 どこかのお笑いのどうぞネタみたいに、何度も続くものだから、おかしくなって思わず吹き出してしまった。


「やっと笑ってくれた」

 穏やかな声が胸の奥に響いてる。

 それはじわじわと浸透して、心をほんのり熱くする。人肌の温度でチョコレートが溶けていくように。
 ふいに手を掴まれたと思ったら、下津くんによって星名くんの手へと重ねられた。

 触れ合った柔らかな感触に心臓が跳ね上がる。

 男の子に、ーー初めて触れた。


「今日が友達記念日ってことでいいんじゃない? まあ、これから仲良くしようってことで」


 壊れかけのアンドロイドのようにぎこちない私に、「僕からもよろしくね」と天使の笑顔が降ってくる。


「よろしく……お願いします」


 遅咲きの桜は、きっとこんな気持ちなんだろう。

 早くと焦らなくていい。みんなと並んでいなくてもいい。

 たとえ知らない世界が待っていたとしても、誰かの笑顔でまた明日も咲いていようと思える。
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