メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

「応募総数五十七?思ったよりも多いな」
安西は自身が企画したキャンペーンの応募数を確認していた。
今西に呆れられ、妹に軽蔑されながら企画した〝花嫁募集キャンペーン〟だ。

晴夏はこの企画を今西から聞いて、すごい剣幕で電話をしてきた。

『お兄ちゃん!女性の扱いに問題ありって前から思ってたけど、そこまで最低だとは知らなかったわ。マジで軽蔑する。本当にお嫁さんをそんな方法で募集するなら、兄妹の縁は切るからっ。ママたちには言わないでいてあげるけど、それが最後の情けだと思ってよねっ』

一方的にまくし立てて電話はプツッと切れた。

晴夏は感情の起伏が激しくて、ひどく怒ったあと何事もなかったようにニコニコと話しかけてきたりする。今回もそんな感じだろうと気にも留めなかった。

でも、いつもならWeb関係の仕事をしてくれる今西からは、キャンペーンの応募フォーム作成は拒否された。「そんなのに手を貸したら、晴夏が一生口を聞いてくれない」というのが拒否の理由だ。

安西自身は名案だと思っているのに、賛同者は全くいない。なぜだ?
自分でするからいいさ、と意地になって応募フォームを作成した。

身内には大不評の企画だったが、思った以上の反響があった。

別に大々的に公募したわけじゃない。ちょうど市町村向けの会社案内を刷新するところだったので、案内の隅に企画の趣旨と応募フォームのリンクを載せただけだ。

『花嫁募集!当選した市町村は優先的にコンサルティングします』と小さく記載された文に気づく人はいるだろうかと危惧していたところ、五十七の応募があったというわけだ。

「新進気鋭の若社長の妻になれるんだ。わが娘を、わが孫をと思う人はいるだろうさ。それで?本当にこの中から妻を選ぶ気なのか?」
呆れたように今西が言った。

「もちろん募集したからには選ぶに決まってる。別に相手は誰でもいいんだ。婚姻期間は三年で、その間は三ヶ月おきにこちらが指定した地方の市町村を移り住んでもらう。週に一回メールでその土地の情報を知らせてもらうのが重要な任務だ。俺との面会は一切なし。三年後離婚する際には、退職金代わりの慰謝料を払う。なかなかのアイデアだろ?」

「……ばかばかしい」
心底呆れ果てたというように言い捨てて、今西は部屋を出て行った。

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