メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
灯里は今日もウロウロと部屋の中を歩いていた。
今考えているのはペットの雑誌の記事だ。ペット同伴で利用できるカフェや旅館の特集記事だが、灯里が担当しているのは、それぞれのお店や旅館の写真に添える紹介文だ。
短いフレーズで印象に残る文章にしなければならない。
腕組みをして天井を見つめながら、ああでもない、こうでもないと灯里はグルグルと歩き回っていた。
スマホの着信音がなる。確認すると祖父だ。
前回の電話からちょうど二週間。例の応募がダメだったことを律義に知らせてくれたらしい。
「もしもー……」
「灯里っ。大変や。当選してしもたっ」
灯里が出た瞬間に、祖父の大声が響き渡った。
*
「ただいまー」
ガラガラと重い引き戸を開けて家の中に入る。お正月やお盆以外で村に帰るのは初めてのことだ。
新幹線と在来線、バスを乗り継いで六時間。灯里が村に帰ろうとすると一日がかりになる。
大慌ての祖父から電話がかかってきて、とにかく一度帰ってきてくれと懇願された。仕方がないのでペットの雑誌の記事を即行で書き上げ、こうして帰ってきたのだ。
家の奥から、「おかえり、灯里」と言いながら、祖母が出てきた。
「こんなことに巻き込んでごめんなぁ」
それでなくても小さいのに、これ以上ないくらい体を縮めている。
「大丈夫。とにかくちゃんと話を聞いてみるわ。おじいちゃん、電話では興奮しきってるし」
灯里は苦笑いし、祖母の背中を優しく撫でた。
座敷に行くと、祖父の他に副村長と顔見知りの役場の人が何人か揃っている。
「灯里、すまん…」
祖父は大きな顔をキュッとゆがめて謝った。
「灯里ちゃん、悪かったなぁ」
副村長さんも後に続く。役場の人たちもみんな下を向いて座っていた。
まるで葬儀場のような雰囲気だ。
「みなさん、ただいま。話を聞かせてもらえますか?」
灯里はその場が明るくなるように、笑顔を作った。