メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

「……なるほど。しかし変わった社長さんですね。お嫁さんを募集するなんて」

呆れたように灯里は言った。
話の筋はこの前祖父から聞いていた通りで、新情報としては、灯里と結婚することを条件に、相談費用も格安にしてもらえるということだ。結婚の諸々の条件は、灯里と個別に打ち合わせるということで、明日担当の人が村に来て説明するという。

「とにかく明日担当の人と話をしてみます。村にとってはいい話ですし」

「断ってええで。応募しといてこんなこと言うのはいまさらやが、灯里ちゃんに村を背負わせるわけにはいかんのやから」
副村長さんが眉を下げる。

「わかりました。心配しないでください」
灯里は朗らかに笑ってみせた。


みんなが帰った後、祖父母と灯里で食卓を囲む。
懐かしい祖母の味。野菜たっぷりの素朴な料理の数々だ。

いつもは上機嫌で晩酌をし、笑顔を振りまく祖父の表情が硬い。

「おじいちゃん、顔が怖いよ」
灯里がおどけたように言うと、祖父は硬い表情のまま灯里を見た。

「明日、担当の人にはじいちゃんが説明する。慌てて灯里を呼んでしもたが、考えてみたらじいちゃんが断ればいい話やった。すまんかったな」

「ううん。担当の人とは私が会う。そういう約束でしょ?大丈夫。ちゃんと話ぐらいできるから」

両親が突然いなくなって途方に暮れていたとき、灯里を迎えに来てくれたのは祖父だった。病院のベンチに座って、ボーっとしている灯里を大きな体で抱きしめてくれ、『大丈夫や。じいちゃんとばあちゃんがおる。灯里はこれからじいちゃんとばあちゃんの子や』と言ってくれた。灯里はその時の温かさを今でも覚えている。

村に来てからは、村の人みんなが灯里を大事にしてくれた。誰もかわいそうなどとは言わない。ただ、温かく受け入れてくれたのだ。

できることなら村に恩返しがしたい。
どうせ結婚の予定などなかったのだし、村の役に立てる結婚ならしがいもあるというものだ。

「まあ任せてよ」
灯里は大きな祖父の肩をトントンと叩いた。


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