メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
翌日、担当の人がやってきた。いかにも東京のビジネスマンという感じの人だ。濃いグレーのスーツにアタッシュケースを持ち、フチなしの細い眼鏡をかけている。
祖父は同席したそうにしていたが、灯里は大きな背中をグイグイ押して、部屋から追い出すことに成功した。
十人は座れそうな大きな座敷机を挟んで向かい合う。
差し出された名刺を確認すると、「代表取締役社長秘書 今西俊樹」と書いてあった。
灯里も名刺を差し出す。
「ライター 吉永灯里」と書かれた手作り感満載の素朴な名刺だ。
「こんな田舎にわざわざ来ていただいてすみません。遠かったですよね」
「いや、仕事柄地方に行くのは慣れています。灯里さんはここにお住まいですか?」
灯里はオフィスを構えていないので、名刺には名前とスマホの番号しか書いていない。だいたいの場場所がわかるように、東京にある自宅最寄りの駅名を告げた。
「そうですか。それなら会社に来てもらえばよかったですね」
「でも村を見てもらえるのでよかったです。これからこの村を助けてくださるんですよね」
今西はピクッと眉を上げると、灯里の目を探るように見た。
「灯里さんは、本当に結婚してもいいと思っていますか?こんな馬鹿げた企画をするうちの社長と」
「今西さんも馬鹿げた企画だと思ってるんですね」
灯里は思わず吹き出した。
「当たり前です。もうお前と仕事をするのは止めるとここまで出かけましたよ」
今西は笑いながら、自分の喉をトントンと押さえた。
「結婚の条件を教えてもらえますか?そのお話を聞いてから決めたいと思います」
「わかりました。しっかりと説明させてもらいます」
今西は微笑んでアタッシュケースから書類を取り出した。