メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
話を聞いた灯里は困惑した。何から聞けばいいのだろう。
「あの…。婚姻期間は三年ということは、三年たったら離婚するということでしょうか?」
「はい、そうです」
今西は大きく頷いた。
「その間、私は地方の町や村を三か月毎に住み替えて、週に一度その土地の情報を社長さんにメールする?」
「そのとおり。健康に問題がないかの報告もお願いします」
「社長さんとの面会なしということは、結婚しても一度も会わないということですか?」
「はい、おそらく三年間一度も会うことはありません」
灯里は黙り込んだ。なんという条件なんだろう。ドラマやマンガじゃあるまいし。
しばらく考え込んだ後、誰かが聞いているわけでもないのに、キョロキョロと周囲を確認して小さな声で聞いた。
「もしかして、これは偽装結婚ということですか?」
「端的に言うなら、そういうことになりますね」
今西も声を潜めて答えた。
偽装結婚というか強いて言うならメール婚?
だって夫にメールを送るだけで、一度も会わないなんて…
灯里は再び黙り込んだ。
そんな灯里を見て、今西は困ったように微笑んだ。
「断っていただいても構いません。その方が正常な判断だと思います」
今西は、出されていたお茶を「失礼」と断ってから一口飲み、もう一度灯里の目を見て話し出した。
「ただ考えようによっては、一種の就職ととらえることもできます」
「偶然にも灯里さんはライターでいらっしゃる。地方の滞在記を週に一度書く仕事に就いたと考えてみてはどうでしょう。家賃光熱費はもちろんタダ。生活費も充分お渡しします。三年後には慰謝料という形の退職金も出ます。ただ、戸籍を汚すことにはなりますが…」
そこが大きな問題ですけどね、と今西は苦笑いをした。