メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
落ち着かない様子で待っていた祖父母にも明るく報告する。
「悪い話じゃなかったよ。とりあえず前向きに考えてみる」
「断らなかったのか?」
祖父は驚いたように言い、何か言いたげに口をもごもごと動かした。
やはり当分の間は結婚を決意したと言わない方がよさそうだ。祖父のことだから、東京の社長さんのところに押しかけかねない。しばらく時間が経った後、ゆっくり考えて決めたということにしよう。
「ゆっくり考えてみるね。せっかくだから、今西さんに村の様子をみてもらおうよ。もしかすると村おこしをお願いするかもしれないんだし」
腑に落ちない様子の祖父をホラホラと追い立てて、今西とともに村を巡る。
と言っても、見どころなんてあまりないのだ。村一番の自慢と言えば栗。あとはキノコ、山菜が取れるくらい。
でも、自慢の栗は大粒で甘く、こだわりのある料亭や菓子店で使ってくれているところもある。
そう説明すると、「栗ですか」と今西は腕組みをして考えていた。
栗林につくと、栗拾いにきている幼稚園の団体がいた。子どもたちの笑い声がはじけ、こちらも思わず笑顔になる。子どもたちに紛れて、栗を拾っていたおばあちゃんがよっこらしょと立ち上がった。
「灯里ちゃん、帰ってたの」
「うん。吉田のおばちゃん、ただいま」
祖母の友だちの吉田さんだ。灯里が村に来たときから、ずっと可愛がってくれている。
「そちらは?」
今西を見て不思議そうに聞く。
「東京から来られた今西さん。村おこしのお手伝いをしてくださるかもしれないの」
「ほー。それは、それは」
吉田のおばちゃんは感心するように頷いた。
「それなら栗を食べてもらわないかん。うちの村の唯一の自慢やで。家に帰ってすぐ届けるから待っててや」
そう言い残すと、急いで帰っていった。