メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~


安西は締めていたネクタイを少し緩めた。今日は今西がいないので、仕事がうまく回らない。今西は例のキャンペーンの詳細な話をするために、吉永灯里の村に行っているのだ。

戸棚からファイルを何冊か取り出し、必要な書類をイライラと探す。今西がいればすぐわかることなのに、無駄な時間が腹立たしい。

時計を見ると午後四時だった。
新幹線が停車する駅の近くに泊まる予定だと聞いていたので、午前中には帰ってくると思っていた。だが、未だに今西は現れない。メッセージアプリで「遅くなる」と連絡が着たきりだ。

吉永灯里が結婚を承諾したのか否か。
それくらいは電話で教えてくれてもいいだろう。

向こうから応募してきてくれたことだが、実は条件付きの結婚だと知れば拒否されることは大いに考えられる。

安西はもう一度灯里の写真をタブレットに映し出した。灯里の部分だけを拡大したものだ。
それをじっと見つめて『おいどうなんだ、了承したのか?』と問いかけた。

扉がノックされ、返事をする前に今西が入ってきた。両手に大きな紙袋を二つも持っている。

「いやあ、やっぱり遠いな。今後西日本の仕事も増えていくだろうから、大阪に支店を出すことを考えた方がよさそうだ。時間も金も節約できる」

疲れたようにドサッとソファーに腰を下ろした。

「……観光にでも行ってきたのか。なんだその荷物」
「ああ。吉田のおばちゃんがどうしても持ってけって言うから、仕方なく」

紙袋の中には、大根や白菜などがどっさり入っている。

「あそこの村は栗が自慢らしい。婦人部では栗を使ったお菓子を研究してるそうだ。ロールケーキやマロングラッセ、栗羊羹なんかもあるぞ。俺は食ってきたがなかなか美味い」

今西は紙袋から様々な形の箱を取り出しながら、楽し気に言った。


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