メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
「……吉田のおばちゃんって誰だ」
「灯里ちゃんがお世話になってる近所のおばさんだよ。婦人部の取りまとめをしてるから、これから何かと接点がありそうだ」
安西は頭を抱えた。
「待て待て。話の筋が見えない。おまえ何しに行ってきたのかわかってんのか」
今西は手を止めて、きょとんとした顔をした。
「吉永灯里はなんて言ったんだ?それを言うのが先だろ」
「ああ、結婚のことか。誰が交渉しにいったと思ってるんだ。了承してもらえたに決まってるだろ。灯里ちゃんはライターだからな。週一回の連載の仕事が入ったと思って引き受けてくれないかと言ったら、うんと言ってもらえた」
今西は自慢げに胸をそらした。
「彼女はイメージ通りいい子だったよ。お前のくだらない計画に巻き込むのはかわいそうな気もするが、俺がこれからサポートしていく。お前は慰謝料に向けてしっかりと金を稼げ」
そう言うと、また紙袋に取り掛かった。
「昨日はしこたま飲まされて、気がついたら寝てた。今朝は灯里ちゃんが味噌汁を作ってくれだんだが、これが二日酔いによく効く最高に美味い味噌汁でさ。最後は片道四十分かけて駅まで送ってくれて、至れり尽くせりってやつさ。いやあ、あの子は本当にいい子だぞ」
鼻歌でも歌いそうな機嫌の良さだ。
「あの村の栗はいい。そこをアピールポイントにしていく方向で考えよう。それと…」
ベラベラと今西は話し続けていたが、安西はなぜか面白くない気持ちになっていた。
吉永灯里が結婚を承諾してくれたことはよかったが、自分が蚊帳の外にいる気がするのはなぜだろう。
今西が「灯里ちゃん」と親し気に呼ぶのも気に入らない。
吉永家に泊まって何もなかったんだろうな、と問い詰めたい気もするが、安西は口を結んで耐える。
タブレットに映る灯里は、にこやかに笑っていた。