メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
しとしとと雨が降っている。島ではこのところ梅雨らしい天気が続いていた。
ここに来てもうすぐ三ヶ月。この景色ともお別れだと思うと名残惜しく、暇があればリビングから海を眺めていた。
次はどこにいくんだろう。
「次の場所の指示がまだなんですけど…」
窓の近くに椅子を据え、ボーっと外を見ながら呟いた。
インターフォンが鳴り、現実に引き戻される。
ヨネさんかな?庭で取れたスナップエンドウを届けてくれるといっていたので、持って来てくれたのかもしれない。
パタパタと玄関に走り、ドアを開けた。
「不用心ですね。相手を確かめてから開けないと」
今西が眉間にしわを寄せて小言を言った。
「今西さん!」
予期せぬ来訪客に思わず大きな声が出た。
すると、今西を押しのけるようにして背の高い女性が灯里の前に立った。肩をガシッとつかまれると、長い黒髪が灯里の顔にかかる。
「あなたが灯里ちゃんね!」
今西の妻であり安西の妹でもある、晴夏だった。
「会ってみたかったの。俊樹の言う通り可愛いわぁ。ほんとバカな兄貴が迷惑かけてごめんねー」
リビングのソファーに落ち着いた晴夏は凄い勢いで喋った。
今西は苦笑いで聞いている。
灯里は圧倒されながらも、気さくな晴夏の人柄にどんどん引き込まれていく。どちらかと言うとのんびりとした性格の灯里は、晴夏のようなハキハキとしたタイプに憧れるのだ。
「私もお会いできて嬉しいです。こんな遠くまで来てくださってありがとうございます」
にっこりと微笑む灯里を見ていた晴夏は、「なんて可愛いのっ」と叫んだかと思うと灯里をムギュッと抱きしめた。
「晴夏!」
今西が慌てて、晴夏を止めた。
「すみません。晴夏は小さくて可愛いものが大好きなんです」
困ったように言う今西に、灯里はせき込みながら「大丈夫です…」とかろうじて答えた。
「ごめんね、つい。自分がこんなに大きいから小さな人に憧れがあるの」
172センチあるという晴夏は、確かに大きいがとても美しい。モデルの仕事をしていたと聞いて納得した。灯里は153センチしかない。160センチに憧れを抱く灯里にとって、晴夏は雲の上のような人だ。
「私は晴夏さんのように背が高くて綺麗な人に憧れます」
コロコロと笑う灯里を、晴夏はもう一度力強く抱きしめた。
「バカ兄貴めっ!灯里ちゃんは私がもらうからっ」
平屋の家に晴夏の声が響き渡った。