メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
「次は信州になります」
書類を出しながら、何事もなかったように今西は説明を始めた。
「信州!」
夏の暑い時期に信州とは、嬉しい限りだ。白樺並木、澄んだ湖。灯里は行ったことがないが、イメージとしてはそんなものが浮かぶ。
今西に叱られた晴夏はシュンとして座っていたが、「信州いいわね!東京からも近くなるし」と弾んだ声を出した。
すっかり島に馴染んだところだったが、新しい土地への期待に胸が膨らむ。村と東京(念を押すが、限りなく埼玉に近い東京)しか知らない灯里にとって、夢のような生活だ。
「ここの島に関しては、灯里さんが報告してくれたことが大変参考になりました。島民と町役場の意見も一致しているようですし、今後はレモン島としてアピールしていくことになっています。貴重な国産レモンの産地ですからね」
今西の言葉に灯里は安堵した。今ではすっかり家族のようになった島の人たちの役に立てたことが嬉しい。
「この島のレモンは本当に美味しいんです。よろしくお願いします」
深々と頭を下げる灯里を、今西と晴夏は温かい眼差しで見つめていた。