メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

灯里が持って行ったワインとソーセージも喜ばれ、ソーセージは早速食卓に出された。灯里が渡したワインよりもずっと高価なワインが振る舞われ、和やかに食事が始まる。

灯里はアルコールに強い方だが、今日は一杯目で酔っぱらった。言い訳が許されるなら、無理ないでしょと言いたい。
朝から壁にペンキを塗り、草木染をして、東京まで出て来たのだ。しかも心臓に悪いサプライズ付きだ。

酔っぱらった灯里は、いつも以上にニコニコと饒舌になる。

「結婚して早々に滞在記を書く仕事の依頼が来て、陽大さん(初めて呼んだ!)には申し訳ないんですが、離れて暮らすことになったんです。ご挨拶もせずに申し訳ございませんでした」

『どうして離れて暮らすことになっているのか』という質問に対する灯里の答えだ。

よどみなく架空の設定を説明する自分が信じられないが、全てはアルコールの力だと言っておこう。どうとでもなれという半分やけくそな気分でもある。

でも、安西との結婚の詳細はうまくごまかせたと思う(多分)。偽装結婚だということも、安西とは会ったことがないということも隠し通すことができた(と信じている)。晴夏が内情を知ってくれているのも大きい。返事が難しい質問は、うまく晴夏が答えてくれた。

結婚の話さえクリアできたら、後は普段通りの受け答えでいい。生い立ちや生まれ育った村のこと、ライターの仕事のこと、全て包み隠すことなく話した。
安西の家は見るからに家柄がよさそうだが、こんな嫁はダメだと言われたら、早々に離婚すればいい。時期が早まるだけだ。

亡くなった両親の話の時には、晴夏がハラハラと泣き出して困ったが、「灯里ちゃんは私が守るっ」とまたギュウギュウと抱きしめられ、窒息しかけた灯里をお義母様が救出してくれるというコントのような終わり方をして助かった。湿っぽい雰囲気は苦手なのだ。

食事が終わる頃にはすっかり馴染み、まるで本当の家族のように受け入れてもらえた。
「陽大のことをよろしくね」とお義母様に言われた時には、胸が痛んだけれど。

こんな大それた嘘をついて、そのうち天罰が下りそう。
いや。全ては旦那様のせいだ。私は悪くないぞー。

フワフワと酔いに任せて、全部安西に押し付ける。
今は灯里も東京にいるので、安西がどっちの方向にいるのかわからない。
四方八方、しかめっ面で見回しておいた。


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